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HASAMIと馬場商店の工房を訪ねて

工房訪問 HASAMIと馬場商店の工房を訪ねて

2016年12月公開

長崎県波佐見町でつくられる「波佐見焼(はさみやき)」。
江戸時代から庶民向けの日常使いの器をつくり、
江戸後期にはなんと日本一の磁器生産量を誇っていました。
とは言え、長い間、隣接する佐賀県有田町でつくられる有田焼の下請け産地だったため、
波佐見焼という名前はあまり知られていなかったのが実情。

しかし、ここ数年で波佐見焼の知名度は格段に高くなりました。
その立役者こそが、今回おじゃまさせていただいた産地問屋の「マルヒロ」です。
波佐見の名を前面に推し出したブランド「HASAMI(はさみ)」や
和食器ブランド「馬場商店」などを手がけています。

実はマルヒロは、ほんの数年前まで倒産の危機に瀕していたとか。
今では日本中のセレクトショップなどで目にするHASAMIや馬場商店の器たちが、
ここにたどり着くまでの長くて険しい道のりを伺いました。

※2017年8月8日より、馬場商店はBAR BARにブランド名を変更しました。

HASAMI



1. HASAMI・馬場商店の魅力


馬場匡平さん

▲馬場匡平さん。


マルヒロの快進撃を語る上で外せないキーパーソンが、もじゃもじゃ髭のこちらの男性。
HASAMIや馬場商店を立ち上げたマルヒロの3代目であり、
現在“HASAMI ブランドマネージャー”を務める、馬場匡平(きょうへい)さんです。
波佐見訛りで「どうも~!」と、明るく迎えてくれました。


「僕がHASAMIを立ち上げて、一番最初につくったアイテムなんです」と紹介してくれたのは、
マルヒロの代表作、HASAMIの「ブロックマグ」。
直線的なフォルムと鮮やかな色彩が印象的です。

HASAMIは、毎日の暮らしで使われる“道具”がコンセプト。
なかでも最初に発表した「ブロックマグ」を含む「season 1」というシリーズでは、
60年代アメリカのダイナーで使われていたような、
少々雑に扱っても割れにくい厚手で無骨なデザインを特徴としています。
それは、献上品や工芸品としての器をつくってきた有田焼とは対照的に、
日常使いの器を得意とする波佐見焼の歴史とも重なります。

ブロックマグ」をつくるため、
手始めに馬場さんはリサイクルショップでマグカップ50個を買い、徹底的に研究。
「2つ以上あったら重ねられないと邪魔だとか、
実際に使ってみたらマグカップの弱点が見えてきました」。

実はデザインについて勉強した経験がなく、絵も上手ではないという馬場さん。
「図面を描くのも苦手で、点と点を打って、線でつなぐことしかできなくて。
自分のできることを精一杯やった結果、
直線的なマグカップになったんです(笑)」と面白おかしく打ち明けます。
しかし、もちろん使い勝手のことを考えているのは当たり前。
外側は直線的な方がスタッキング可能で、持ち手も意外と握りやすい。
一方で内側は、スプーンが沿うような滑らかな曲線に。
見よう見まねで描いた最初の図面をもとに、
職人さんと微調整を繰り返した結果、今のかたちにたどり着いたのです。

また、これまでの波佐見焼、さらには日本の食器になかったような、
遊び心のあるカラーバリエーションも人気の秘密。
いわゆる原色そのままとは違う、絶妙な色づかいなのです。
これには、釉薬で勝負したいという馬場さんの想いがあります。
「以前、僕が描いたイメージをもとに職人さんに絵付けをしてもらったら、
全然伝わらずに意図しないものができちゃったんです。
だったら絵柄に頼る器ではなく、波佐見焼の高い技術だからこそ表現できる
釉薬の個性を活かした器にしようと思ったんです」。

馬場さんの若いセンスから生まれた器は、
普段「器を買う」ということに馴染みのない、男性や若い層からも人気を得ています。
アメリカのフォントデザイン会社「ハウスインダストリーズ」とコラボレーションするなど、
海外からの注目も高まっています。

そば猪口

▲馬場商店の「そば猪口 和文・赤


一方の馬場商店は、
現代の生活に寄り添うような和の食器が中心。
「馬場商店のデザインは僕だけじゃないんです」と
馬場さんが紹介してくれたのは、
社内デザイナーの新里李紗(にいざと りさ)さん。
波佐見の技法を活かした商品は、
その分野に詳しい馬場さんが担当する一方、
絵柄のデザインが必要な商品などは、
絵が得意な新里さんが手がけています。


新里李紗さん

▲新里李紗さん。

馬場商店で最も人気なのが、いろんな柄や素材の個性が楽しめる「そば猪口」。
現在、そば猪口として親しまれている台形型の器の原点は、伊万里焼にあるんだとか。
伊万里焼とは元々、有田・三川内・波佐見でつくられた陶器の総称でした。
つまり波佐見は、そば猪口の生まれ故郷の一つなのです。

そんな波佐見にいわれのある小さな器に、釉薬や絵付け、転写など様々な技術を凝縮。
現在、なんと約120種類を展開しています。

赤い華やかな文様で人気の「和文・赤」は、新里さんのデザイン。
「年に1~2回程度、社内で新商品の企画会議を開き、
次に開発する商品のリストアップと、馬場と私どちらが担当するか決めるんです。
和文・赤』は、当時、上絵付けのあるそば猪口がシリーズ内で少なかったことから誕生。
古くから日本に伝わるパターンをもとに考えました」。

いろは


もう一つ、馬場商店で人気なのが、
青い呉須の絵付けが印象的な「いろは」シリーズ。
「職人さんが昔からつくっていたかたちなんです(新里さん)」という器には、
江戸時代に波佐見町でつくられていた庶民の器「くらわんか碗」の文様を再現しています。
江戸初期まで、磁器は細かな絵付けゆえに非常に高価なものでした。
そこで、くらわんか碗は巨大な登り窯で大量に焼くことと、
簡略化したシンプルな絵柄を施すことで、価格を抑えることに成功。
一般層に磁器が普及し、波佐見焼の需要が増えるきっかけとなりました。

いろは」は、くらわんか碗の醍醐味である、のびのびと大胆に描かれた絵柄が特徴。
絵筆の跡が残るぬくもりある風合いを、今の暮らしにもあうかたちで提案しています。


馬場さんと新里さん。
それぞれの強みを活かして生み出したHASAMIや馬場商店の商品たちは、
今では全国の小売店約700店で取り扱われるまでになりました。

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