工房訪問 家事問屋の工場を訪ねて
2017年6月公開
新潟県の中央に位置する燕市と三条市、通称「燕三条」と呼ばれるエリア。
古くから日本を代表する金属加工の一大産地として知られ、
特に燕市ではカトラリーなどの金属洋食器分野において、
国内生産量のシェア90%以上を占めています。
そんな産地の優れた技術を活かし、
毎日の家事に必要な道具を提案するのが「家事問屋(かじどんや)」。
2015年にスタートしたばかりの、まだ新しいブランドです。
家事問屋のつくる道具は、目を引くような派手さや斬新さはないかもしれません。
しかし、使い手の声が実直に反映された、ありそうで無かったものばかりです。
どのようにして商品が生まれているのかを探りに、燕三条を訪ねました。
1. “ありきたり、なのに使いやすい”道具
▲家事問屋のボールの一部。それぞれに使いやすい工夫が詰まっています。
家事問屋の商品は、
“ありきたり、なのに使いやすい”がモットー。
下ごしらえや調理を中心とした台所の道具から、洗濯の道具まで、
ありそうでなかった家事の道具を手がけています。
例えば、ボールをとっても、
用途にあわせて細かなサイズ・かたちを展開。
▲「下ごしらえボール」。小さめですが深さがあり、卵の攪拌にもぴったりです。
特に一番人気なのが「下ごしらえボール」です。
片手に収まるような、小回りの利く小さめのボール3サイズ。
深さがあるので、混ぜ合わせやすく、目盛り付きなので計量も可能。
注ぐときも口がついているので液だれしにくく、気持ちよく使えます。
フチがカールされていないので、汚れがたまらず、洗いやすいのもポイントです。
▲縦横を交互にして積み上げられる、「スタッキングザル」(左)と「スタッキングザル用バット」(右)。
セットで使える「スタッキングザル」と「スタッキングザル用バット」は、
名前の通り積み重ねることができるので、調理スペースの有効活用が可能。
重ねたときに安定するよう、底には小さな突起が付いており、
ザルとバットの両方があることで用途が広がります。
そのうえ、別々で売られているのも、消費者としては嬉しいところです。
▲茹でたものをまとめて湯切りできる、「オーバルすくいザル」。鍋の底にも側面の内側にも沿いやすいかたちです。
▲極細の注ぎ口で、コーヒーを手軽に上手に淹れられる
「ワンドリップポット」。
▲重いタオルやデニムもしっかり挟む、
頑丈な「角ハンガー」。
そのほかにも、茹でた野菜や麺の湯切りを楽にする「オーバルすくいザル」や、
1杯分のコーヒーを淹れるための「ワンドリップポット」、
丈夫で絡みにくいステンレス製の「角ハンガー」など、
毎日の家事をさりげなく快適にして、
使うたびに小さな喜びをもたらしてくれる商品がたくさん。
奇抜さや華やかさはありませんが、
「そうそう、こんなものが欲しかった!」と思わず言いたくなるような、
かゆいところに手が届く堅実な道具ばかりです。
燕三条だからできた、こだわりの新作「ホットパン」
「完成まで最も苦労した商品が、
ようやく発売を迎えたんです」と
嬉しそうに教えてくれたのは、
新潟県燕市の産地問屋「下村企販」の久保寺公一さん。
自社ブランド「家事問屋」を立ち上げた、その人です。
▲下村企販営業部の久保寺公一さん。
▲新作「ホットパン」は、IH対応のアルミ製ホットサンドメーカーです。
久保寺さんが見せてくれたのは、この6月に発売したばかりの「ホットパン」。
なんと、市場に出ているすべてのホットサンドメーカーを買って、使い比べたと言うから脱帽です。
「僕自身ホットサンドが大好きだから、つい力が入ってしまって」と、久保寺さん渾身の一品です。
IHに対応した、満足できるホットサンドメーカーがないという気付きがはじまり。
「鉄製なら、IHで使えるものも多数ありますが、
やっぱり熱伝導率がよく、お手入れが簡単なアルミのものがあったらいいなと思って」と、
かねてより懇意にしていた燕市のメーカー「オダジマ」に製造を依頼しました。
▲「ホットパン」でつくった、ホットサンド。パニーニのような焼き目が、食欲をそそります。
ちなみに久保寺さんおすすめの具は、やはり定番のハム&チーズだそう。
パンの内側と具はふんわり柔らか。
でも外側はパリッと、耳の周りはカリッと。
「ホットパン」本体は二重構造になっており、具をたくさん入れても蓋を閉じやすく、
周りにこぼれ落ちにくいつくり。
さらには分解できるので洗いやすく、汚れや傷も付きにくいといいことづくめです。
設計は、デザイナーの小泉誠さんが担当。
他のホットサンドメーカーとは一線を画した、使いやすさと美しさが両立したデザインです。
値段の安さではなく、美味しさや使い勝手といった
質の高さで勝負したいと徹底的にこだわり、
普通なら3ヶ月程度で商品化させるところ、3年近くもかかりました。
▲上皿と下皿をつなぐ蝶番(ちょうつがい)の部分は、知恵の輪のような特殊な構造になっており、分解することができます。
「分解できる蝶番(ちょうつがい)の構造だったり、
開いたときに上皿が90度に自立する仕組みだったり、
技術面での難題に何度もぶち当たりました。
そのたびにオダジマさんと小泉さんと、3人でうんうん唸りあって試行錯誤して。
正直、途中で投げ出したくなったこともありましたよ(笑)」と振り返ります。
それでも久保寺さんの熱い想いに、メーカー・デザイナー側もつくり手の意地を見せ、
やっとのことで完成までたどり着きました。
「画期的な技術を使っているわけではないのですが、
産地で蓄積されてきたノウハウがあってこそ」と、
まさに燕三条でなければ完成できなかった道具なのです。