くるみガラスができるまで-後編-
ようやく出来上がりの形が想像できるようになった頃、
将樹さんが「はい」と声をかけると待ち構えていたスタッフの方が、
別の竿の先端に「ポンテ」と呼ばれるガラスの小さな玉を窯から取り出し、
タンブラー底面の中心にその塊をすっと付けます。
そして、ふたり、息の合った動作で竿を1回転させると、今度は将樹さん側の竿を切り離しました。
切り離した側を先端にして、また窯に入れて熱します。
そして、窯から出したタンブラーの口を丁寧に広げていきます。
改めて、ああ、ここが口になるんだなぁとようやく分かるのです。
「半玉と呼ばれるモール型の上(口側)の部分は、
普通はモールのコップには使われないんですけど、僕らはそこをあえて活かしているんです」
コップの形が整ったら、ここからはスタッフの方にバトンタッチ。
将樹さんから竿を受け取ったスタッフの方は、タンブラーの底面からポンテの付いた竿を切り離し、
バーナーの火をあてます。そして、スプーンの背で底面をそっと押さえ、平らにします。
これで「ポンテ」跡がキレイになくなるというわけです。
ここまででようやく成形が終了。とはいってもほんの10分以内の出来事でした。
成形が終わったタンブラーを、
別の窯に入れます。
扉に、正の字で何がいくつ中に入っているか
記されているこの窯は
500℃に保たれており、
ガラスを徐々に冷やすのに
使われるそうです。
しばらくはこの窯に置かれ、
冷えたら完成となるのです。
目の回るような早さで進む作業を一通り見て思うのは、
あまりに単純な感想ですが、「ガラスは柔らかいんだなぁ」ということ。
普段使っている、硬質なイメージのガラスが、
熱されると、まるでつきたてのお餅や、昔遊んだスライムのように、
簡単に形を変えてしまうという、不思議な感覚。
何物にもなり得るガラスの塊は、とても「自由」で、
これまでのガラスのイメージを覆されました。
けれど、ガラスが柔らかい時間はほんの一瞬。
だからこそ、ガラスを形づくる職人の刹那的な判断によって生まれたそのかたちは、
繊細で、純粋で、美しいのだと、あらためて思うのです。
こうしてできあがった「くるみガラス タンブラー」。
まったく同じかたちのものは、ひとつとしてありません。
けれどどれも選びがたい、将樹さんの作品らしい、素朴で健やかな美しさがあります。
私たちの体を流れる水は、
やっぱりこんなグラスで飲みたいと思うのです。