産地別のうつわ 九州・沖縄編
日本のうつわは、各地で地域の特色を反映して発展してきました。
「産地別のうつわ」では、数ある産地の中から、
地域別に代表的な産地と、そのうつわの特徴を紹介します。
今回は「九州・沖縄編」です。
朝鮮に近い九州地方では、
豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に多くの藩が陶工を連れ帰り、
朝鮮の影響を色濃く受けた焼き物の産地が多数発展。
また佐賀県の有田では、朝鮮陶工により磁器の原料が見つかり、
日本最初の磁器となる「有田焼」が焼かれました。
一方、長らく本土とは異なる独自の文化を築いてきた沖縄では、
「壺屋焼」や「琉球ガラス」といった特色あるうつわがつくられています。
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福岡県朝倉郡東峰村
小石原焼(こいしわらやき)
「飛び鉋」や「刷毛目」などの技法で知られる陶器。
約350年前の江戸時代に当時の藩主が伊万里焼の陶工を招き、
中国風の磁器のつくり方を伝えたのがはじまり。
その後、一時の停滞期を経て、陶器がつくられるようになりました。
うつわに鉋を当ててリズミカルな模様をつける「飛び鉋」や、
刷毛の跡を残す「刷毛目」などの装飾技法が特徴的です。
小石原焼の技法は県境を隔てた隣町に伝わり、小鹿田焼として栄えました。
現在でも50軒以上の窯元が昔ながらの技法を守り、
あたたかみのある陶器をつくっています。
【お取り扱いのあるブランド】
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小石原ポタリー
小石原焼の複数の窯元が、フードコーディネーターの長尾智子さんとともに立ち上げたブランド。コンセプトは「料理を美味しくするうつわ」。昔ながらの小石原焼の技法を活かしながら、パン皿やスープボウルなど現代の食卓に合ううつわをつくり出しています。
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佐賀県唐津市など
唐津焼(からつやき)
画像提供:(一社)唐津観光協会
朝鮮に由来する多彩な装飾技法が見所の陶器。
その起源は諸説ありますが、1580年代頃にはじまり、
朝鮮出兵で連れ帰った陶工たちにより発展。
蹴ろくろや登り窯の技術を取り入れた、日本で最初の窯といわれています。
多くの茶人から愛されて栄えますが、その後一時衰退。
現在では再興し、唐津市内に約70軒の窯元が存在します。
唐津地方の粗い土を使い、土の風合いをそのまま楽しめるような力強い表情が魅力。
灰色の素地に模様を施し、白い化粧土で装飾する「三島」や、
素地の上に白い化粧土を施す「粉引」など、
朝鮮から伝わった技法を中心に装飾の種類が多いことが特徴です。
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佐賀県西松浦郡有田町など
有田焼(ありたやき)
真っ白な素地に、華やかで繊細な絵つけが施された磁器。
17世紀初頭、朝鮮陶工により日本ではじめて
磁器の原料となる陶石が見つかった地で、
日本で最初に磁器が焼かれました。
ヨーロッパなどの海外にも積極的に輸出され、高く評価されました。
見所は、白さを追求した美しい肌に施された豪華絢爛な絵つけ。
乳白色の素地に赤絵を施した「柿右衛門」、
鍋島藩(佐賀藩)の献上品として精巧な美しさを誇った「鍋島」など
多種多様な様式が存在します。
ちなみに当初、有田焼を中心とした近隣の焼き物は、
伊万里港から出荷されたため、「伊万里焼(古伊万里)」とも呼ばれていました。
現在では有田でつくられているものは有田焼、
伊万里でつくられているものが伊万里焼と区別されています。
【お取り扱いのあるブランド】
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JICON
創業350年の有田焼の窯元「陶悦窯」から独立した「今村製陶」が、生活用品デザイナーの大治将典さんとともに立ち上げたブランド。従来の有田焼のイメージを覆す、素材の色を大切にした生成り色の肌が特徴。絵つけは施さず、やわらかな白色を纏った、現代の暮らしに合ううつわです。
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大日窯
1958年に開窯。代々受け継がれる自家製の呉須や赤絵、釉薬にこだわり、創業以来変わらない絵つけのものも多くつくり続けています。やや青灰がかった白に、染つけや赤絵が施されたうつわは、あたたかみのある印象。有田焼では唯一、日本民藝協会が指定する民藝の窯元でもあります。
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1616/arita japan
有田焼の総合商社、株式会社百田陶園の社長百田憲由さんが、2012年にデザイナーの柳原照弘さんをディレクターに招き、制作したブランド。1616年にはじまった有田焼の伝統を踏襲しながらも、これまでの有田焼とは異なるデザインアプローチを試みています。
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2016/Teruhiro Yanagihara
1616年の400年後である2016年の節目に、次の400年を見据えて新たなかたちで有田焼を世界に発信するために生まれたブランド「2016/」。cotogotoで扱うのは、「1616/arita japan」も手がける柳原照弘さんデザインによるもの。これまで有田焼でタブーとされてきた釉薬の色ムラを活かすなど、有田焼の新たな側面を楽しめます。
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長崎県東彼杵郡波佐見町
波佐見焼(はさみやき)
朝鮮陶工がはじめ、最初は陶器がつくられていましたが、
地域で磁器の原料となる陶石が見つかり磁器中心に。
当時は高価なイメージがあった磁器ですが、
波佐見では「くらわんか碗」と呼ばれた飯碗など
庶民向けの日常使いの器を生産。
江戸後期にはなんと日本一の磁器生産量を誇っていました。
しかし長い間、隣接する佐賀県有田町でつくられる
有田焼の下請け産地だったため、
波佐見焼という名前はあまり知られていなかったのが実情。
近年、波佐見の名前を推し出したブランドの成功などにより、
名前が知れ渡るようになりました。
波佐見焼は特徴がなく、どんなものでもつくれる技術力の高さが自慢。
常に時代に合わせた柔軟なものづくりを行っています。
【お取り扱いのあるブランド】
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HASAMI
波佐見の産地問屋「マルヒロ」が手がける、波佐見の名を前面に押し出したブランド。「50~60年代のアメリカのひなびたローサイドのカフェで使われていた大衆食器」をイメージしてつくられています。機能的で洗いやすく、少々雑に扱っても大丈夫な実用的なかたちに、日本の食器になかったような遊び心のあるカラーバリエーションが人気です。
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BAR BAR
「HASAMI」を生んだ産地問屋「マルヒロ」による和食器ブランド。「いろは」は、1750~80年頃につくられたくらわんか碗の素朴な風合いを再現したシリーズ。「そば猪口」シリーズでは、「何でもできる波佐見焼」をわかりやすく伝えるために、複数の窯元が釉薬や絵つけなど、それぞれの強みを活かしたそば猪口を展開しています。
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白山陶器
江戸時代中頃の1779年に前身となる窯が創業。1958年に現在の社名に改めました。わんの内側が広く見えて絵柄を楽しめる「平茶わん」や、伝統的な梅文様をモダンにアレンジした「ねじり梅」など、グッドデザイン賞やロングライフデザイン賞を多数受賞。長く愛される優れたデザインのうつわが生み出されています。
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堀江陶器
半世紀前に創業。新しいものづくりの息吹をつくり手に伝えることを大切にする堀江陶器と3人のインテリアスタイリスト、雑貨プランナーが力を合わせて、「こんなものが欲しい」をかたちにしたのが、cotogotoで取り扱うブランド「h+(エイチ・プラス)」。波佐見焼の伝統、ものづくりにチームの思いやアイデアがプラスされたブランドです。
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熊本県荒尾市など
小代焼(しょうだいやき)
素朴ながら大胆な釉薬や土の表情が楽しい陶器。
1632年に朝鮮陶工たちが熊本県北部の
小岱山(しょうだいさん)に窯を築いたことが起源です。
明治に一度途絶えますが、昭和初期に復活。
小岱山は良質な陶土が採れ、藁や木の釉薬を用いた素朴で力強い器が特徴です。
釉薬や焼成温度の調整により、「青小代」、「黄小代」、「白小代」などと呼ばれる
発色技法が使い分けられています。
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大分県日田市
小鹿田焼(おんたやき)
民藝のうつわとして高く評価されている陶器。
江戸時代中期に、県境を隔てて隣り合う小石原焼の陶工が
技術を伝えて開窯しました。
代々長男が窯を継ぐ一子相伝で受け継がれ、
現在は10軒の窯元があります。
川の水流を利用して原料となる土を砕く唐臼(からうす)など、
生産工程は開窯当時のままをほぼ保たれ、
その技術は国の重要無形文化財にも指定されています。
1931年には民藝運動の指導者・柳宗悦が訪れ、絶賛したことで注目されます。
小石原焼と共通する「飛び鉋」や「刷毛目」などの技法が多く用いられますが、
「飛び鉋」は小鹿田の土の方が色が暗く、白化粧が映えるため、
より模様が際立つという評価も。
美しく使い勝手に優れた実用のうつわがつくられています。
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鹿児島県日置市など
薩摩焼(さつまやき)
画像提供:公益社団法人 鹿児島県観光連盟
豪華絢爛な「白薩摩」と、素朴でたくましい「黒薩摩」という
対称的な二つの陶器、薩摩焼。
朝鮮陶工により礎が築かれました。
「白もん」と呼ばれる白薩摩は、淡いクリーム色の肌に
細かな貫入が入った透明釉がかかり、
その上に繊細な色絵が施されているもの。
藩の御用窯として、主に献上品としてつくられ、
1867年のパリ万博に薩摩藩が出品した際には国際的に高い評価を得ました。
一方の「黒もん」と呼ばれる黒薩摩は、庶民向けの日用雑器で、
鉄分の多い土に黒などの色つき釉薬を施しています。
黒薩摩では、「黒茶家(くろぢょか)」に代表されるような
焼酎を飲むときに使われるうつわも多くつくられています。
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沖縄県那覇市、中頭郡読谷村
壺屋焼(つぼややき)
沖縄の風土を反映した、素朴で力強い陶器。
沖縄の言葉で焼き物のことを「やちむん」といいますが、その代表が壺屋焼です。
アジア諸国から焼き物の技術が伝えられ、
薩摩藩から朝鮮式の陶器のつくり方が伝わり発展。
1682年より那覇市の壺屋地域にて生産していましたが、
那覇の発展とともに焼き物を焼く際の煙の問題が生じ、
一部の窯は郊外の読谷村(よみたんそん)に移りました。
アジアのさまざまな国と関わり、独自の文化を築いてきた
沖縄ならではの独自性が感じられるうつわをつくっています。
とくに、沖縄の植物や生き物などをモチーフにした躍動感のある絵つけは、
南国のエネルギーに満ち溢れています。
細い口がついた酒の注器「カラカラ」や、三日月形の酒器「抱瓶」など
独特のかたちのうつわも豊富です。
【お取り扱いのあるブランド】
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陶眞窯
相馬正和さんが壺屋の名窯「育陶園」にて修行後、1975年に恩納村(おんなそん)にて築窯した「陶眞窯」。現在は読谷村に窯場を移しています。土は赤土や白土など、沖縄の原土をブレンド。沖縄の赤土は焼き上げると暗い色になるため、白土で化粧を施して明るく仕上げ、その上にのびのびとしたタッチで草花を描いています。
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沖縄県糸満市など
琉球ガラス(りゅうきゅうがらす)
廃瓶を活用して生まれたガラス工芸が琉球ガラスです。
沖縄では、明治の中頃からガラスがつくられていましたが、
現在のかたちになったのは戦後。
駐留米軍が使用したコーラやビールの廃瓶を再利用した
独自のガラスがつくられるようになりました。
一升瓶を原料にすると淡い水色、清涼飲料水の瓶は緑色と、
原料となる瓶の色を活かしているのが特徴。
くすんだやわらかい風合いに、ぽってりとした質感、
そして程よい重みと厚みという再生ガラスならではの魅力があります。
【お取り扱いのあるブランド】
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ガラス工房 清天
再生ガラスを使わない工房も増えてきた沖縄で、昔ながらの再生ガラスにこだわる工房。沖縄県読谷村にて松田清春さんが主宰し、現在は5人の職人・見習いたちが、日々ガラスづくりに取り組んでいます。実用の器としてのガラスにこだわっています。
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※参考書籍:
「産地別 やきものの見わけ方」佐々木秀憲監修(東京美術)
「伝統工芸 青山スクエア」