産地別のうつわ 近畿編
日本のうつわは、各地で地域の特色を反映して発展してきました。
「産地別のうつわ」では、数ある産地の中から、
地域別に代表的な産地と、そのうつわの特徴を紹介します。
今回は「近畿編」です。
近畿地方には、中世から現代まで続く日本を代表する窯「日本六古窯(ろっこよう)」である
「信楽(しがらき)焼」や「丹波焼」など、歴史のある焼き物の産地が多く存在します。
耐火度が高いなど良質な土を活かしたうつわなどがつくられてきました。
かつての都である京都は、原料には恵まれませんでしたが、
全国から優れた技術を持った職人が集まり、焼き物の産地として発展。
また、紀州ヒノキの産地である和歌山では、
日本三大漆器の一つである「紀州漆器」がつくられています。
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三重県四日市市
萬古焼(ばんこやき)
耐火度の高い土を使った陶器やせっ器、半磁器。
江戸時代に生まれ、「萬古の印があることが一番の特徴」といわれるほど、
時代やつくり手ごとに多種多様なうつわがつくられてきました。
萬古焼の土はペタライトという鉱石を加えることで、直火や空焚きにも耐えうる強度があり、
土鍋の国内シェア約8割を占めるともいわれています。
土鍋と並んで、看板商品となっているのが急須。
粒が細かく粘性のある土のため、茶漉しや持ち手など
小さなパーツを組み合わせてつくりやすいのです。
また大正時代には陶器と磁器のいいとこどりをした「半磁器」の技術を開発し、
時代に合わせて、暮らしのなかで使いやすいうつわを手がけています。
【お取り扱いのあるブランド】
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南景製陶園
約300種類もの茶器を手がける南景製陶園。代表作の「ベンリー急須」は、茶漉し網が急須の底を覆うように取りつけられているから、茶葉がゆったりと広がり、旨味を抽出できる優れもの。鉄分を多く含む土を使い、長時間かけて焼き締められることで、お茶の味をまろやかにする効果があります。
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4th-market
南景製陶園を含む、萬古焼の4つの窯元が2005年に立ち上げたブランド。「気取りすぎず、可愛すぎず、シンプルなだけでもないモノ」をモットーに、土鍋や耐熱食器、半磁器など萬古焼の強みを活かしたものづくりに取り組んでいます。
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三重県伊賀市
伊賀焼(いがやき)
耐火度のある土を用いた、力強い風合いが魅力の陶器。
ざらっとした質感の粗い土と、高温で焼くことで生まれる
野性味溢れる素朴な表情が特徴です。
奈良時代に生まれ、当初は隣接する信楽焼の一つと捉えられていました。
桃山時代になると、激しく歪んだかたちや釉薬の流れた跡、焦げなどに
美意識を見出す「破調の美」として、茶陶の世界で高く評価されます。
その後一度途絶えますが、江戸時代に藩の支援により復興。
400万年前の古琵琶湖層と呼ばれる土の層から採れる耐火性と蓄熱性のある土を活かし、
耐熱食器や土鍋などを中心とした日用雑器が焼かれます。
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滋賀県甲賀市
信楽焼(しがらきやき)
画像提供:信楽伝統産業会館
良質な土の質感を大切にしたせっ器、陶器。
豊富な陶土に恵まれた地域で、その土は粗く、耐火性に優れています。
またコシがあるので、大物や肉厚のものをつくるのも得意。
時代ごとにさまざまな焼き物がつくられてきました。
鎌倉時代に常滑焼の影響を受け、壷や甕など焼く窯としてはじまり、
室町時代に茶の湯が盛んになると茶陶を手がけ、
明治時代には火鉢の生産で栄えました。
また、信楽焼といえば有名なのが、タヌキの置物。
これは昭和天皇が信楽に行幸した際に気に入られ、
歌に詠まれたことで全国に知られました。
現在では食器を含め、やわらかく、あたたかみのある焼き物がつくられています。
中世から続く日本六古窯の一つ。
【お取り扱いのあるブランド】
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古谷製陶所
優しく素朴な土の表情を活かしたものづくりに取り組む工房。独自の配合でつくり上げた赤土に、白泥を化粧がけし、透明の釉薬を重ねる「粉引き」が得意。釉薬をかけて焼成した後、さらに刷毛で釉薬を重ねてもう一度焼成するという二度の本焼きを経ることで、丈夫かつ貫入が入りにくくなり、扱いやすく仕上げています。
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京都府京都市など
京焼・清水焼(きょうやき・きよみずやき)
画像提供:京都陶磁器協会
あでやかな絵つけが施された陶器など、京文化が反映された陶磁器。
かつては清水寺の参道界隈の窯元でつくられたものが「清水焼」とされていましたが、
現在では京都広域で生産されている焼き物を総称して「京焼・清水焼」と呼んでいます。
奈良時代に生まれ、桃山時代に茶の湯の流行を受けて茶陶が盛んに。
江戸時代に活躍した陶工・野々村仁清(にんせい)氏の活躍により、基礎が築かれました。
京都では原料となる土や石が採れないため、他産地から仕入れていますが、
長年都として栄えた地であることから、各地から高みを目指す職人が集うことで発展。
窯ごとにさまざまなうつわを手がけていますが、
代表的なのは華やかな絵つけを施した、あたたかみのある色絵陶器です。
色絵磁器と異なり、土のやわらかな白さが活かされています。
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兵庫県篠山市
丹波焼(たんばやき)
画像提供:立杭陶の郷
日常の暮らしで使うことを目的につくられた、素朴な陶器。
平安時代末期から鎌倉時代初頭に、常滑焼の影響で
焼き締めを焼いたのがはじまりで、日本六古窯にも数えられています。
はじめは大きな壷や甕、すり鉢などを手がけ、
その後も茶陶などはほぼつくらず、一貫して日用の道具をつくってきました。
光沢ある赤褐色の赤土部釉(あかどべゆう)などの個性ある釉薬や、
スポイトなどで模様を描く「イッチン」など、多様な装飾も特徴的。
時代に合わせて技法や装飾を変え、常に暮らしに根ざしたものづくりを続けています。
工房が並ぶ立杭(たちくい)地域の名から「立杭焼」とも呼ばれていましたが、
現在は「丹波立杭焼」として伝統的工芸品の指定を受けています。
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和歌山県海南市
紀州漆器(きしゅうしっき)
画像提供:紀州漆器協同組合
赤い漆の下から黒い漆がかすれて見え、
色合いのコントラストが美しい「根来(ねごろ)塗」に代表される漆器。
福島の会津塗、石川の山中漆器・輪島塗などとともに、
漆器の三大産地ともいわれています。
海南市の中でも黒江地域で多くつくられていたことから、当初は「黒江塗」と呼ばれ、
現在では紀州漆器として名が通っています。
室町時代に滋賀県から木地師の集団が移り住み、
豊富な紀州ヒノキを材に、椀づくりがはじまりました。
近年ではひょうたんやみかんの皮に漆を施したうつわを手がけるなど、
新たな挑戦にも意欲的です。
※参考書籍:
「産地別 やきものの見わけ方」佐々木秀憲監修(東京美術)
「民藝の教科書② うつわ」久野恵一監修/萩原健太郎著(グラフィック社)
「伝統工芸 青山スクエア」