うつわの技法 陶磁器 装飾編
うつわは使い勝手をよくしたり、見た目を美しくしたりするために、
陶磁器や木などの素材ごとに、さまざまな技法が用いられます。
「うつわの技法」では、数ある技法のなかから、
cotogotoで取り扱っているうつわにも使われている技法を取り上げています。
陶磁器編では、「釉薬」や「装飾」、「成形」の技法を扱います。今回は装飾編です。
釉薬は陶磁器の装飾の技法の一種とも言えますが、
その他にも絵や模様を施したり、表面を削ったり、様々な装飾が存在します。
装飾の技法名はうつわの名前の一部になっていることも多く、うつわの大きな見所と言えます。
特に磁器の場合は、真っ白な素地に鮮やかな「絵付け」が際立ちます。
同じ装飾でも産地やつくり手によって特徴があり、印象が大きく変わるのが面白いところ。
ぜひ好みの装飾を探してみてください。
-
1.絵付け
「絵付け」とは陶磁器に絵を描くこと。
そもそも陶磁器の製作は、「成形」→「素焼き」→
「釉薬を掛ける」→「本焼き」という流れが一般的で、
素焼き後、釉薬を掛ける前の素地に
絵付けを施すことを「下絵(したえ)」、
釉薬を掛けた本焼き後の素地に絵を描き、
再び焼成することを「上絵(うわえ)」と呼びます。
下絵と上絵の両方を組み合わせることもあります。
特に磁器の場合は、
下絵は「染付(そめつけ)」、上絵は「色絵(いろえ)」が
それぞれ代表的な技法で、
下絵にはハンコのように転写で絵付けを行う「印判」などもあります。
-
染付(そめつけ)
素焼きした素地に藍色の絵具(呉須)で絵を描き、透明釉を掛けて本焼きすること。
釉薬の下に絵があるので「下絵」とも呼ばれます。
高温の本焼きに耐えられる絵具しか使用できないため、「呉須」と呼ばれる焼くと藍色に発色する絵具を用いて、藍色一色で描かれるのが一般的。
藍色の濃淡や線の細さなどで繊細に表現し、まるで水墨画のような味わいがあります。
「有田焼」に多く見られます。
-
色絵(いろえ)
素焼き後、透明釉を施して本焼きをした素地に様々な色で絵付けをし、再度低温で焼きます。
釉薬の上に絵が描かれ、絵具によってはぷっくりと盛り上がったり、艶があったり、色合いだけでなく質感も楽しめます。
そして何より焼成が低温のため、様々な色の絵具が使用でき、華やかさが魅力です。
特に赤を基調とした色絵を「赤絵」と呼びます。
「九谷焼」に多く見られます。
-
印判(いんばん)
手描きによる絵付けに対して、同じ絵柄をハンコのように転写で絵付けする技法。
明治時代に同じ絵柄のうつわを大量に生産するためにつくられた技法で、銅版や石版などに絵具をつけて転写します。
手作業で行われる転写は、絵柄のズレやかすれ、にじみなど一つ一つ違う個性が生まれ、味わいがあります。
「印判手」とも呼ばれます。
-
-
2.その他の装飾
絵付け以外にも、
陶器・磁器には様々な技法で装飾されています。
動きのある模様をつけることで、力強い印象を与える
「スリップウェア」や「飛び鉋」、「刷毛目」、
うつわの印象を引き締める「皮鯨」、
そして表面を削ることで立体感を与える
「面取り」や「鎬」がその例です。
-
スリップウェア
土に水を加えて泥状にした「泥漿(でいしょう・スリップ)」を素地に掛けて、模様を描いたもの。
イギリス発祥で、17世紀から19世紀中ごろまでの産業革命前に愛され、その後途絶えていた技術を、20世紀はじめ日本の陶工らが復元しました。 -
飛び鉋(とびかんな)
うつわを回転させながら、工具である「鉋(かんな)」の刃を当て、表面を飛び飛びに削って模様をつけたもの。
有機的な模様がリズミカルに刻まれます。
「小鹿田焼」や「小石原焼」によく見られます。
-
刷毛目(はけめ)
刷毛で白い化粧土などを素地に塗り、わざと刷毛の跡を残して仕上げたもの。
「飛び鉋」と同じように、回転するうつわに刷毛を当て、リズミカルに刷毛を打ち付けたものは「打ち刷毛目」とも言います。
-
皮鯨(かわくじら)
白っぽい釉薬を全体に掛けたうつわの口縁に、黒や茶などの濃い色の釉薬を施したもの。
鯨の皮と脂身との色の対比に見立てて付けられた名前です。
印象がきりっと引き締まります。
-
面取り(めんとり)
丸いうつわの表面を縦方向に金属のヘラなどで削って、平らな面をつくること。
面取りを施すことで陰影が生まれ、うつわに立体感が生まれます。
-
鎬(しのぎ)
うつわの表面を縦方向に金属のヘラなどで削って凹凸をつけ、しま模様を施すこと。
「面取り」の一種。
-
※参考書籍:
「美しいうつわ」成美堂出版編集部(成美堂出版)
「民藝の教科書1 うつわ」久野恵一監修/萩原健太郎著(グラフィック社)
「産地別 やきものの見わけ方」佐々木秀憲監修(東京美術)