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RHYTHMOSの工房を訪ねて

4. 100年続くブランドへ

ものづくりの原点

革を裁つ飯伏さん


確固たる信念を持って革と向き合う飯伏さんですが、
なんと実はすべて自己流。
これまで革職人のもとで修行したり、
学校でデザインの勉強をしたことはありません。

1977年、鹿児島県指宿(いぶすき)市生まれの飯伏さん。
子どもの頃の飯伏さんは、元々大工だったおじいさんにべったり。
おじいさんがものをつくったり、修理をしたりする様子を見るのが好きだったと言います。
「木材が椅子になるなど、ものがかたちを変えていく様がまるで魔法のようで。
僕自身も4、5歳の頃には鑿(のみ)の打ち方やのこぎりのひき方を教わり、
道具を使ってものをつくるということに親しみながら育ちました」。

その結果、小さな頃からずっとなりたい職業は何かをつくる仕事でしたが、
「これ!」というものを決められず、流れに身を任せ地元の一般大学へ進学。
ものづくりは趣味として続けていました。

RHYTHMOS 机

▲幼少期からものの「つくり」にも興味があり、時計などを分解して遊んでいたそう。
自ら手を動かし学ぶ姿勢が、今に繋がっています。

そんな大学生の頃、友人に頼まれて革小物をつくってみたのがきっかけで、
レザークラフトをはじめました。
「僕は誰かに教わったりテキストを見たりするのが苦手なんです。
自分が器用だという変なプライドがありましたから。
適当にお店で材料と道具を買って、見よう見まねでつくりましたね」。
最初は何をつくっても上手くいかず、既成の財布を分解して構造を学んだり、
何度もつくってはほどいたり。
トライアンドエラーを繰り返すことで、自力で技術を身につけました。

趣味ではじめたことですが、気づけばその奥深い世界に魅せられます。
2002年、25歳のときに勤めていた会社を辞め、
「RHYTHM(リズム)」という屋号を掲げ、革の仕事をスタート。
副業をしながらオリジナルの革小物をつくって販売したり、
オーダーメイドの依頼を受けるようになります。
そして2008年、代表作となる「Zip」が生まれるのです。

自己流だからつくれた「Zip」

飯伏さん

▲図面をつくったりせず、直接革にアイデアを落とし込むのも飯伏流。あまり考え込まずに、まず手を動かします。

オーダーメイドを受けるなかで多かったのが財布の注文。
ここをこうして欲しい、ああして欲しいと
財布に対して多くの人が不満をもっていることに驚いたと言います。
これだけ既存のものに満足していない人が多いということは、
全く違うかたちの財布が求められているのではないか。

そう考えた飯伏さんが注目したのが、銀行のATMの前で
ビニール製のポーチにお金を入れて並ぶ人たちの姿。
「たしかにマチがないポーチのようなかたちは、平たいのにたくさん入って便利。
『お札用、小銭用、通帳用、カード用といった複数のポーチが1つになったような
かたちの財布があったら使いやすいのでは?』という発想に至ったんです」。

ZipSとL


その発想をそのままかたちにし、生まれたのが「Zip」でした。
先にコンパクトな「Zip S」が、その後に長さのある「Zip L」が誕生。
「すごくいいものができた!」と自信がありましたが、意外にも周囲の反応はイマイチ。
思うように売れない日々が続きました。

2010年。
飯伏さんは、東京で行われるバイヤー向けの合同展示会に初出展します。
「ここで反応が悪かったら、『Zip』はやめよう」。
あえて他の商品は出さず、自信作である「Zip」だけを並べ、
「Zip」だけのパンフレットをつくり、「Zip」だけを見てもらうことに注力します。

その結果、多くのバイヤーから
使い勝手やデザイン、ものづくりへのこだわりなどを評価され、
全国のショップで取り扱いが決まったり、新たな展示会の話が持ち上がります。
遠回りしながら独り歩んできた道が、一気に拓けたのです。

シリアルナンバー

▲2010年の展示会以降、商品ごとに付けはじめたシリアルナンバー。
各番号の付いた商品がいつ製作され、どこのお店で販売されたかわかるようにしています。

「学校で勉強したり修行したりしてきた仲間たちと比べて、
自己流をコンプレックスに感じた時期もありました。
でも自己流だからこそ、自由な発想でものづくりができているはず。
誰かに教わっていたら、『Zip』のようなものはつくれなかったかもしれません。
だから今は誇りにさえ思っています」。

そして2015年には、ブランド名を「RHYTHM(リズム)」の語源である
「RHYTHMOS(リュトモス)」に改名。
職人の数も少しずつ増やしてきました。
「はじめは年に200個程度しかつくれなかった『Zip L』が、
仲間も増えて少しずつつくれる数も増えました」と、
一歩ずつ着実に前へ進んでいます。

財布界のコンバースオールスターを目指して


「『Zip』が目指すのは財布界の『コンバース オールスター』です」と、
突然、飯伏さんの口から放たれたのは大きな野望。

「僕は“定番”が好きなんです。
タイムレスであるということに魅力を感じます。
オールスターは最近100周年を迎えたんですが、
多少のモデルチェンジはしているけれど、ほとんど変わらずつくられている。
僕自身、何足も履いてきたし、また履きたいなと思うこともある。
そんな風に、引き出しを開けたら10年前に使っていた『Zip』が出てきて、
これ使いやすかったな、また使いたいなと思ってもらったときに、
いつでも同じものが手に入る状態でありたいんです。
現状、財布の定番ってなかなかないと思うので、
『Zip』がその存在になりたいなと」。

Zip3色


100年後も愛され、つくり続けられる定番に。
それは、飯伏さんが生きている間だけでは達成できないかもしれません。
だからこそ、自分と同じようにつくれる職人や想いを伝えられるスタッフを育て、
ブランドとして永く安定して生産し続けられる体制づくりを目指します。

大きな目標に聞こえますが、飯伏さんのモットーは有言実行。
これまでも自ら道を切り拓き、掲げた目標をクリアしてきました。

シンプルなデザインに宿る機能美。
丁寧な手仕事だからできる、永く使える仕組み。
そして一針一針に込められた、動物への感謝の気持ち。
「Zip」には、既に定番になりうる理由が揃っているのではないでしょうか。
そして、こういうものこそ、
世の中で広く愛され続けるものであって欲しいと思うのです。

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