野田琺瑯の工房と台所を訪ねて

4. 野田琺瑯が目指す未来


野田琺瑯の職人さん


靖智さんがおっしゃっていたとおり、琺瑯ができるまでの工程は、
大半を人の手に頼っており、驚くほどアナログなものでした。

「もっと効率の良いやり方もあるんだと思います。
だけど、一番美しく仕上げられる方法は、やっぱり人の手作業によるものだったんです」(靖智さん)。
「1つのものをたくさんつくるのであれば、もっと自動化もできるのですが、
野田琺瑯の売りはたくさんの種類のものを、少しずつ、
様々な需要に合わせてつくれるところにあると思っています。
その分、手がかかり、時間がかかってしまうこともありますが、
誠実に美しさを追求する努力をしていきます」と、浩一社長は語ります。

売れるものより、自分が欲しい新商品を

時代に合わせて新しい商品を送り出してきた野田琺瑯。
次はどんな新商品を考えているのでしょうか。

野田琺瑯が重視するのは使い勝手の良さですが、
シンプルで機能美が宿った、優れたデザインのものばかりです。

ロカポ

▲オイルポット「ロカポ」。蓋を裏返すと、油を注ぐときに置き場所に困るろ過器を置けるので、手やキッチンを汚しません。
これは浩一社長のアイデアだそう。


野田琺瑯の最新作である「ロカポ」もその1つ。
使用済みの調理油をろ過して再利用しやすくする家庭用オイルポットで、
“揚げ物担当”の浩一社長が台所に立つなかで、欲しいと感じていたものでした。
「これまでも小型のオイルポットはありましたが、
ある程度しっかり揚げ物をするときに、
たっぷり目の油を何度かに分けてろ過するのは、手間がかかってしまう。
使用した油を一度に漉したいが、邪魔にならない最小のサイズは保ちたい。
そんな自分の要望を元に、長い開発期間をかけて、大変苦労して生み出した製品です」。

善子さんも口をそろえます。
「売り手の方からは、もう少し小さめのサイズの方が売れるのに、という声もいただきます。
でも私の生活信条からすると、800mlの油を一気にオイルポットの中に収め、
早く鍋を洗って片付けたいと思うんです。
同じ想いの人に使っていただけたら嬉しいです」。


売れるものより、自分が心から良いと思えるもの、欲しいと思えるものをつくりたい。
「自分が使いたいと思わないものを、皆さまに使っていただこうなんて、
そんなことは許されないでしょう」と善子さん。
当たり前のように聞こえて、ビジネスの上ではとても難しいことです。
でも、浩一社長や善子さん自身を含む、使う側の意見に真摯に耳を傾ける姿勢。
これこそが、野田琺瑯が80年以上続いている大きな理由ではないでしょうか。

現在では日本全国で13社あまりに減ってしまった琺瑯メーカー。
なかでも家庭用の琺瑯製品をつくっているのは、たったの3社だけ。
鉄板の成形から焼成までを自社で一貫製造できるのは、日本国内で野田琺瑯1社になりました。
それでも野田琺瑯はこれからも変わらずに、
機能美に秀でたものを製品化していきたいと展望を語ります。

琺瑯を通して食べることの幸せを支える

花を生けたスリムポット

▲野田家の出窓に飾られていた、花を生けたスリムポット。


野田琺瑯が掲げている言葉があります。
“琺瑯は、使う人の心延(こころばえ)を的確に表してくれる日常の道具として
心をつくし、手をつくし、造りつづけています。”

もっと効率よく家事をしたい。
美味しいご飯を家族に食べさせたい。
食材を無駄にしたくない。
環境にも優しくありたい。
そんな使う人の求めに応じて、琺瑯は毎日の暮らしを助けてくれる道具であると
野田琺瑯は考えているのです。

「私はね、とにかく食いしん坊なんです」と善子さんは笑います。
「食べることって人間として生きていくなかで、一番大切なことだと思うんです。
だって今ある身体は、食べたものだけでできているわけでしょう。
そんな生きることの中心となるお料理や食事に喜びを見出せたならば、
きっとその人も、ともに食卓を囲む人も、きっと幸せになれると思うんです」。

ともすると、忙しい暮らしの中で料理や食べることを面倒に感じ、
毎日こだわりなく手軽なもので済ませることのできる時代です。
だけど1つで何役もこなす琺瑯があれば、台所仕事は楽になり、
琺瑯容器に入った冷蔵庫の中の常備菜たちが、キッチンに立つ元気をくれる。
「1人でも多くの人が、自分でつくったものを食べてくれることが私たちの一番の望みであり、
琺瑯が皆さまのお役に立つことができれば、それこそが琺瑯をつくる者の喜びです」。

琺瑯という道具がもつ力を信じて、
野田琺瑯はこれからも変わらず真っ直ぐに、琺瑯一筋の道を進んでいくのでしょう。

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