九谷青窯の工房を訪ねて

金沢の焼き物と言えば、山水や花鳥などを大胆に色彩豊かに表現した
重厚で絢爛な「九谷焼」が知られています。
「呉須(ごす)」という藍青色(らんせいしょく)の顔料で下絵を描き、
赤・黄・緑・紫・紺青の「九谷五彩(くたにごさい)」と言われる5色の絵の具を
厚く盛り上げて塗る「上絵付け」が特徴的で、有田焼と並ぶ日本を代表する色絵陶磁器です。

その九谷焼の流れを汲みつつも、独自の道を行くのが、
石川県小松市にある「九谷青窯(くたにせいよう)」。
余白を活かしのびのびと描かれた図柄や、瑞々しい色使いは、
いつもの食卓にすっと馴染んで使いやすく、
従来の九谷焼に馴染みのなかった層まで広まり、多くの人を惹きつけています。
九谷青窯の魅力の秘密を知りたいと、工房にお邪魔してきました。



1.九谷青窯の陶工さんのこと



九谷青窯を訪れてまず驚くのは、陶工さんの年齢層。
親方がいて、弟子がいて、弟子の中でも兄弟子弟弟子がいて……
といういわゆる窯元のイメージとはがらりと異なり、
十数名いる陶工さんは20代〜30代が中心という若さ。
しかも、それぞれの陶工さんに上下関係はなく、
入社後すぐでも自分でデザイン・成形・絵付けまで一貫して行うこともあるのだとか。
次に驚くのが、色絵を本格的にはじめたのは九谷青窯に来てからという人が多いこと。
なぜなら、彼らが惹かれたのは、九谷焼の色絵の技術の習得ではなく、
自分の器を一からつくれるという九谷青窯の独自のスタイル。

そんな若き陶工さんたちが、九谷青窯で何を学び、
どのように自分の作風や個性を模索しながら、作陶しているのか。
土を練って、ろくろを回して、絵付けをして、という具体的に手を動かすところだけでなく、
その前の段階で、どのようなひらめきを得て、迷って、考えて器をうみだしているのか。
cotogotoでおなじみの6人の陶工さんにお話を伺いました。

 

 
  • 徳永遊心

    入荷するとすぐに売切れてしまう人気の器「色絵花繋ぎ」のつくり手・徳永遊心さん。
    花や果物など、可愛らしい模様と瑞々しい色使いには、全国に多くのファンがいます。
    徳永さんの器が多くの人々に愛される、その秘密はなんなのでしょうか。


    残るもの、時間の中で洗練されてきたものに興味がある

    色絵花繋ぎ手入り

    ▶ 徳永さんの代表作とも言える「色絵花繋ぎ 平皿」。上から、5寸、6寸、7寸、8寸。


    九谷青窯に入るまでは、呉須(ごす)という藍青色の顔料のみで描く
    「染付」ばかりだったと言う徳永さん。
    九谷青窯で色絵と出会い、一番最初に世に出た色絵の作品が、
    現在、徳永さんの代表作となった「色絵花繋ぎ」でした。
    和洋問わず料理に合い、パンでもおにぎりでも、 この器に盛るとなんだか素敵に見える魔法のような器。
    だから、入荷するとすぐに売り切れてしまい、 常に多くの人が再入荷を待ちわびるほど。


    色絵花繋ぎ 平皿 下絵

    ▶ 「色絵花繋ぎ 平皿」の下絵の段階。成型して素焼きした後、下絵用の顔料で模様を描きます。


    花模様と言っても、どことなく落ち着いた雰囲気。
    にっこりと微笑んでいるような、大らかさを感じます。
    「東欧の民族衣装のブラウスやスカートの裾の刺繍の柄からイメージしたんです。
    アフリカの布やアイヌの文様などもそうですが、
    フォークロアと言われる、何百年もの歳月の中で残ってきたものは、
    素朴で、共通のあったかみみたいなものがあるような気がして惹かれます」。

    特別に、徳永さんのデザインノートを見せてもらいました。


    徳永遊心さんのデザインノート

    ▶ 徳永さんのデザインノート。びっしりといろいろなスケッチが描き込まれていました。


    植物柄や幾何学模様など、実際に器になったら……?と、
    ひとつひとつ想像したくなるような素敵な図案がいっぱい。
    徳永さんの作品によくモチーフとして使われる植物は、
    実際に山に行ってスケッチすることも多く、何冊もスケッチ帳ができるほど。
    また、家紋帳を見ながらモチーフの文様化の仕方を研究することもあるそうです。
    「例えば、イチョウの家紋を見て、こういう風に略すと、
    簡単に描くことができながらイチョウってわかるんだなとか。
    古今東西、代々受け継がれてきたものを参考にすることは、勉強になります。
    時間の中で洗練され残ってきたものに興味があるんです」。
    普遍的なよさや価値をいつも探し、それを自分の作品に反映させているからこそ、
    徳永さんの器たちが、多くの人に熱狂的に愛されるのかもしれません。

    丈夫で生活に寄り添う道具、をつくり続けたい

    色絵花繋ぎ手入り

    ▶ 下絵を付ける徳永さん。試作としてつくったものなど、机周りにはレアな柄もたくさん並んでいました。


    「夢は、何百年も後に、“その当時の暮らしの器”として
    自分の器が発掘されること」と笑う徳永さん。
    もともと伝統工芸を担っていきたいと
    陶芸の道に入った徳永さんですが、
    九谷青窯に入って、だんだんと目指す方向性が
    変わっていきました。
    「学校を出て働く窯を探していたときに、
    他のところは師弟関係の中で技術を覚えてください
    というところが多かったんですけど、
    九谷青窯に見学に来たら、
    『どんなものがつくりたいのか、どんなところで売りたいのか』
    ということを聞かれて驚いたんです」。
    入社すると今度は、好きにつくっていいと言われ、
    3ヵ月かけて1000個近くのサンプルを制作。
    それをコンテナに入れて東京のバイヤーに
    見せに行ったところ、
    商品として買い取ってもらえたのは、わずかに1〜2個。
    ただ自分のつくりたいものをつくっても、
    売り手、使い手には響かない。
    入社早々、九谷青窯ならではの独特な方法で、
    どこに向かって器をつくればいいのか、
    つくり手としての考え方を叩き込まれたのです。

    色絵花繋ぎ飯碗

    ▶「色絵花繋ぎ 飯碗」の成形。焼くと縮むことを想定してかたちをつくっていきます。

    色絵みかん7寸鉢

    ▶「色絵花繋ぎ」と並んで人気の「色絵みかん」シリーズの7寸鉢。素焼きしたところに下絵を描いた状態。


    「九谷青窯は、九谷焼きの中では超異端児なんだと思います。
    伝統的なデザインではないですし。
    伝統を守るという視点よりも、使う人の暮らしが変わっていく中で、
    その人がほしいと思うものはなんだろうという考え方から器をつくっているんです。
    時代に迎合して流行りを追いかけるわけではないんですけど、
    特別な人ではなく、日常生活の中で
    食べるのが好きとか人を招くのが好きという人たちが
    手にとってくれて、器を使うことを楽しんでもらうためには、
    どんな器をつくって、どこで売って、
    数はどれくらい必要かということを考えてつくるようになりました。
    この仕事が次の世代にも続いていくことによって、むしろ日本の日常においての、
    食と器を大切にするという伝統を守っていくことになると思っています」。
    九谷青窯では、作陶はもちろん、
    各陶工自身がどこでどのように売りたいかを考え、売り手とも直接やりとりをします。
    その中で、人々に求められるデザインや
    いくつつくれば採算が取れるかなどの感覚も磨かれていくのです。
    「九谷青窯は、ここを出た後もずっと陶芸の道でやっていける人間を育てている
    "学校のような工房"という感じがします」と徳永さん。

    かつて伝統工芸に関わろうと陶芸をはじめたときの、「手仕事のものを残していきたい」という想い。
    今ではきちんと売り手や使い手と向き合いながら、
    普段の暮らしの中で使える器をつくることを通して実現しようとしています。






  • 高原真由美

    大学から陶芸の道に入り、陶芸の職業訓練校、京都の窯元を経て
    九谷青窯に入社した高原真由美さん。
    作陶歴は長かったものの、絵付けをはじめたのは九谷青窯に来てから。
    自分らしさに納得するまで、いろいろな葛藤もあったようです。

    シックな世界感で絵付けの魅力を伝えたい

    色絵花繋ぎ手入り

    ▶ 左上から時計周りに、「牡丹蕎麦猪口」、「白磁輪花」、「唐花6.5寸皿」、「色絵花遊び 湯呑」、「色絵木の実集め 4.5寸皿」、「皮鯨 輪花角皿」。

    高原さんのつくる器には、呉須の青と白で表現する染付や、
    色絵でも色数を抑えたものが多いのが特徴的。
    そして、「洋」の雰囲気も持つ九谷青窯の他の器に比べて、
    どことなく「和」を連想させる佇まい。
    「もともと古いものを見て、
    いろいろ感じることが多かったんですが、
    九谷青窯に来て『古いものをちゃんと見てみたら?』
    と言われて。
    自分が好きだと思うもののルーツを探っていったら
    わかったことがありました。
    白色の素地の上に、
    藍青色に発色する呉須で絵付けをした器に
    魅力を感じるんです。
    和洋問わず、古くからある組み合わせで、
    その色使いが、時代を経ても残っているのは
    どうしてなんだろう、ということを探っています」。
    さらに白磁で色を使わずかたちを際立たせたものや、
    口縁に黒い縁取りをあしらった「皮鯨(かわくじら)」という
    古くからある技法を使ったものなど、
    「可愛らしい」と称されることが多い九谷青窯の他の器たちとは
    違った方向を模索する高原さん。

    作陶歴が長く経験も豊富な高原さんですが、
    実は九谷青窯に来るまでは、職業訓練校でも、
    その後入社した京都の窯元でも
    ろくろによる成形を専門としていました。
    「最初は絵付けですごく苦労しました。
    私がつくるとどうしてもシックな感じになってしまい、
    九谷青窯らしい可愛らしさというのが出せなくて……。
    でも、そんなときに、主宰の秦さんから
    『あんたの雰囲気でやればいいんだよ』と言われて。
    それからは、シックな絵付けをすることで、
    男性や、可愛い絵付けを使うことに躊躇してしまう人にも、

    唐花6.5寸皿

    ▶ 藍青色の顔料「呉須」の濃淡のみで表現。

    色絵木の実集め4.5寸皿

    ▶ 呉須を中心に、緑と黄色を差し色に。

    皮鯨輪花角皿と白磁輪花

    ▶ かたちが際立つ白磁の器。凛としたシックな白です。

    これだったら使えると思ってもらえばいいんだと思うようになったんです。

    九谷青窯では、ひとりひとりが自分らしさを探しながら、さまざまな作品を制作。
    「一般的な窯元は、トップがいて陶工は上下に並んでいるんですが、
    九谷青窯では横に並んでいて、ちゃんとひとりひとりが作品についてきっちり考えている。
    時代の流れや、その中で変化する暮らしに合わせた器のアイデアが新鮮だったり、
    それぞれ持ち味が違うのを見ているとわくわくします」。
    入社年度に関わらず、皆が作家でありライバルという環境が、
    より自分らしさを見つけやすくしているのかもしれません。

    「売ることを考えてデザインしたり、自分の個性は何かを考えたり。
    そういうことを早い段階で身につけられるのはすごく大切。
    そこがやっぱり九谷青窯の懐の深さというか、一番刺激を受けている部分です」。
    他の窯元も経験してきているからこそ、九谷青窯の魅力をより感じている高原さん。
    九谷青窯で作陶してきた8年の間に見つけた「シック」という自分らしさを、
    どんどん深めていこうとしています。







  • 高 祥吾

    草花などをモチーフにした、可憐で軽やかな印象の器をつくる高祥吾さん。
    大学で建築を学んでから陶芸の道に入ったという、ちょっと異色の経歴を持っています。
    石川県出身とはいえ、とくに九谷焼きをやりたかったわけではないという高さんですが、
    九谷青窯のユニークなやり方の中から自分なりのスタイルを探しています。


    もっとのびのび、キレイにつくりすぎないこと

    葉と実 深皿

    ▶ 「葉と実 飯碗」。左から「大」と「小」。

    大学で建築を学んだ後、陶芸の世界へ足を踏み入れた
    高祥吾さん。
    その経歴に妙に納得してしまうのは、薄手で丁寧な仕上げや
    絵付けのやさしいタッチから見て取れるように、
    高さんのつくる器の佇まいが、
    なんだか折り目正しいからでしょうか。
    緻密な計算が必要な建築の世界を知るからこそ?と
    勝手な深読みをしてしまいたくなるのです。

    すっとのびる蔦に小ぶりな葉と実が並ぶ「葉と実」シリーズは、
    呉須を基本に、淡い緑や黄色と、色絵と言っても、
    使っている色は控えめ。
    それがかえって植物の瑞々しさを引き立てています。
    繊細だけれど、のびやかな線。
    楽しんでつくっているのが伝わってくる高さんの器。
    ところが、入社したての頃は、
    「気持ちばかりが前のめりで力が入りすぎていた」のだとか。
    高さんが九谷青窯に入社してはじめに言われた言葉が、
    「頑張らなくていい」でした。

    「普通だったら、もっと頑張れと言われそうなのに……。
    学校とはぜんぜん違うんだと思いました」。

    葉と実 深皿

    ▶ 「葉と実 深皿 7寸」。

    葉と実 深皿

    ▶ はじめは力が入りすぎて1日50個が限度だったのが、今では1日100個ひけるとか。

    その後も、「もっと楽に」「周りにも目を向けてみたら?」など、
    主宰の秦さんから、「〜しなさい」ではなく、そっと方向性を示してくれる言葉かけがあったのだとか。
    きっちりきっちり根を詰めてしまう性格をすぐに見抜かれていたのです。


    高さんがろくろをひいいているところ

    ▶ ろくろによる成形が得意という高さん。手を添えるだけで、すうっとかたちができていきます。


    得意な工程は?と聞くと、
    「九谷青窯でやっていくうちに、ろくろで丸皿をひくのが好きになりました」という返答。
    実際にろくろをひくところを見せていただきましたが、
    高さんがすっと手を添えるだけで、土が勝手にかたちを変えていくように見えるほど。
    その工程が好きと言うのもうなずける巧みさでした。
    けれど、高さんが目指すのは、ただキレイというだけではないそうです。
    「丁寧にキレイにと思いがちなので、もっと楽にできたらいいなと。
    キレイにしすぎないことが課題です」。

    端から見ると完成されているように見える美しいフォルムでも、彼の中ではゴールではない。
    今では周りの人がつくるものもよく見るようになり、そこから刺激を受けることも多いと言います。
    切磋琢磨する環境が、もっともっと、と自分らしさを深めていきたくさせるのです。
    「まだまだ方向性は定まっていないんですけど、いろいろやってみたいと思っています」。







  • 三宅英雅

    ひとりひとりが自分らしさを追及している九谷青窯で、
    より「新しいこと」「他の人がやっていないこと」に意欲的なのが、
    入社して5年目という三宅英雅さん。
    三宅さんも、九谷青窯ではじめて絵付けに出会ったひとり。
    どのように絵付けで新しいことに挑戦しているのでしょうか。


    つくるなら、他の人がやっていないことをやりたい

    点描丸花 平皿

    ▶ 点描による吾須の濃淡で花を表現した「点描丸花」。左が「4寸」、右が「6寸」。


    大学で陶芸を学んだと言っても、器ではなく、オブジェや彫刻を専攻していた三宅さん。
    九谷青窯に入ろうとした理由は、「新しいものに出会えそう」な予感から。
    伊万里を離れ京都の大学に進学したときも、今九谷青窯で作陶しているときも、
    三宅さんは常に、何か新しいことを生み出したいという気持ちが強いよう。
    呉須を使って点描(てんびょう)で図案を描いた「点描丸花」は、まさにそんな三宅さんならではの器。
    というのも、筆を立てて点を打ち、それによって図案を描く点描は、
    陶芸の伝統的な絵付けの技法というわけではないのです。
    「洋画の油絵の展覧会で点描画を見て、こういうやり方もあるんだなと思って」。
    太さの違う2種類の筆を使って、呉須の濃淡を生かした図案になっています。



    葉と実 深皿

    ▶ 「カリフラワー 6寸皿」。深さがあり、縁が広めのかたちは使いやすさ抜群。


    さらに器のタイトルから興味を持ったのが、「カリフラワー」。
    「あまりカリフラワーのモチーフってないんじゃないかなと思って描いてみました。
    白くてふわふわした感じがかわいいかなって」と三宅さん。
    確かに珍しいモチーフ。
    でも、呉須で描かれたカリフラワーは、
    意外としっくり器に合っていて、合わせる料理を選ばない抜群の使い勝手です。

    三宅さんが九谷青窯に魅力を感じたきっかけは、
    「使える器をつくり出す創造性」だったのだとか。
    それは皆が、常に売り手や使い手の目線から器をつくるようにしているから。
    「九谷青窯では、新作をつくるとき、どういう店に置きたいかというところから考えるんです。

    自分で調べたり、連れて行ったりしてもらって、
    実際に店にも行きます」。
    そうして、売り手や使い手の求めているものを
    掴んだうえで制作しているからこそ、カリフラワーのような
    斬新なモチーフで新鮮さが際立ちつつも、
    使いやすく、すっと食卓にもなじむ器が出来上がるのです。

    三宅さんの言う「新しいこと」、
    「他の人がやったことがないこと」とは、
    オブジェや彫刻のような鑑賞するためのものを
    つくることではありません。
    日常使える、料理を盛る器をつくる。
    その中で、どれだけ挑戦できるのか。
    三宅さんの「新しいこと」探しは、まだまだ続いていきます。
    そしてそれが、三宅さんらしさをどんどん深めていくのです。

    型による成形をする三宅さん

    ▶ 型を使う「型打ち」という成形も、好きな工程のひとつ。







  • 米満麻子

    ひらひらと楽しげな蝶や、風に揺れているようなレモンの木など、
    米満麻子さんの描く絵付けは、ゆったりとして大らか。
    九谷青窯歴は、まだ3年と短めながら、すでに自分の個性をつかみつつある米満さん。
    そのスピードには、きちんと納得の理由がありました。


    自分らしさを追求する探究心と直感力

    葉っぱに蝶 蕎麦猪口

    ▶ 「葉っぱに蝶 蕎麦猪口」。一個の蕎麦猪口に、ぐるりと一回りで3種類の蝶が描かれています。



    色絵レモンの木

    ▶ 「色絵レモンの木」。真ん中上から「浅鉢 3.5寸」、「深皿 6寸」、「深皿 7.5寸」。


    カラフルな色使いやリボンのような蝶モチーフなど、
    九谷青窯の中でもひときわポップでキュートな印象の
    米満さんの器。
    「疲れて帰ってきたときに、らくちんごはんでも、
    器によってちょっと楽しくなったらいいなと思って」と米満さん。
    4色の蝶がひらひらと舞う「葉っぱに蝶」や、
    風にそよいでるようなやわらかな曲線の「色絵レモンの木」。
    どれものびやかなタッチが印象的ですが、
    何気ないようでいて、実はきちんと考えられたうえでのもの。
    「筆を抜くときに、やわらかく抜けていくのを意識しています。
    書き続けていって、自分がいいなと思うのが
    そういうのびやかな線だったんです」。

    デザインから器づくりに取り組める九谷青窯では、
    周りの人のつくるものを見て刺激を受けることが多々あります。
    「窯が焼きあがるたびに、他の人がつくった器を手に取って
    重さやかたちなどを見ます。
    1本の線を描いても、みんなそれぞれ違っていて、
    周りと比べてみて、やわらかい線というのが
    自分の個性なのかなと思ったんです」。
    さらに米満さんは、そこで考えることを止めません。
    のびやかなタッチが自分の持ち味なら、

    上絵付けをする米満さん

    ▶ もともと絵を描くのは好きだったという米満さん。

    色絵レモンの木飯碗の上絵付け

    ▶ 「色絵レモンの木 飯碗」の上絵付けの工程。焼成すると黄色くなります。

    それを活かせる絵付けの柄を考えるのだそう。
    さらに、ろくろで成形をする工程でも、
    「自分のリズムとろくろの回転の速さが合うんだと思います。
    おもしろいんですよ。お皿の縁の膨らみとか、ろくろをひいていて、
    『あ、今のラインキレイ』と思うところを探っていくんです」。

    自分らしさに対してとても意識的なところが印象的な米満さん。
    お話を伺っていると、「何気なく」ではなく、
    きちんと考えて自分の個性を探っていることがよく伝わってきました。
    そして、それを探り当てる感性が研ぎ澄まされているのです。
    今後チャレンジしてみたいという、
    「限りなくシンプルで美しく使い勝手がいい究極の器」にたどり着くのも、
    そう遠いことではないかもしれません。







  • 小林巧征

    実家は、焼き物の街として知られる「波佐見」にあり、
    絵付けを専門にした窯元に生まれた小林巧征(こうせい)さん。
    いずれは実家を継ぐことを念頭に、絵付けの修行にと九谷焼の世界に来てみたところ、
    デザインや成形から一貫して行う九谷青窯で、考え方も技術もどんどん広がっていると言います。


    とにかく筆を動かすうちにモチーフが見えてくる

    藍葉 平皿

    ▶ 「藍葉 平皿」。全面総柄は並べると壮観。

    藍色の葉が生い茂るように、
    平皿やカップの全面いっぱいに描かれたシリーズ「藍葉」。
    小林さんが最初に手掛けたモチーフです。
    白地を生かした作品が多い九谷青窯の中で、
    全面総柄はぱっと目立つ存在。
    呉須の藍青色が際立って、気品を感じさせます。
    さらには、合わせる食材も引き立ててくれる、
    絶妙なバランスに仕上がりました。

    「普通だったら、たとえば『葉』というモチーフがまずあって、
    それを掘り下げてデザインをつくっていくんですけど、
    僕の場合はそれがちょっと苦手で……。
    いらない生地に筆で落書きしていくんです。
    それで、なんかこれよさそうと思ったものを整えていく。
    藍葉も、最初に葉をイメージしたわけではなく、
    手が勝手に動いてこういうかたちになったんです」。
    全面総柄も、特徴的。
    「埋め尽くされた感じが好きで、手間はかかるんですけれども、
    どうしても描き込みたくなってしまうんです。
    でも、今はだんだんとシンプルに描くように
    心がけていますが……」。
    手を動かしているうちに図案が見えてきたり、
    埋め尽くされた感じがしっくりくるから総柄になったり、
    自分らしさを感覚から探っていくスタイル自体も
    小林さんの“らしさ”のひとつなのかもしれません。

    九谷青窯に入社して2年。
    今回お話を伺った6人の中で、一番若く、
    作陶歴も短い小林さん。
    「九谷青窯は、九谷焼技術研修所の先生や他の窯元さんとは
    考え方がぜんぜん違って、 最初はちんぷんかんぷんでした。
    主宰の秦さんに、『作品じゃなくて商品をつくれ』と言われて。
    そのときはよくわからなかったんですけど、
    使いやすさとか料理をのせることをちゃんと考えろ
    ということだったんだと思います」
    と2年前を振り返ります。

    藍葉 マグカップ

    ▶ 「藍葉 マグカップ」。

    菊練をする小林さん

    ▶ 土の空気を抜き、粒を均等にすることでヒビや割れを起きにくくする土練りの工程。

    ついつい器だけを見てしまい、
    料理をのせることまでを考えていなかったことに気づかされ、はっとしたのだとか。
    「藍葉」の柄を最初に思いついたのは、九谷青窯に来る前のこと。
    九谷青窯に入社し、そのとき言われた言葉を大切に受け止め、
    器のアイデアを真面目に掘り下げていったところ、今のかたちへとたどり着きました。
    「藍葉」が料理映えするのも納得です。

    小林さんのご実家は、絵付けを専門にする窯元。
    もともとは絵付けの勉強にと九谷焼を学びに石川に来たと言いますが、
    今一番楽しいのは、成形の最後の工程「削り」なのだとか。
    デザインから成形、絵付けまでを一貫して行う九谷青窯で、
    今まさにいろいろなことを吸収している真っ最中。
    これからどのような作品が生まれていくのか、とても楽しみな陶工さんです。



 

誰かの下に付いて修行時代を過ごすのではなく、
ひとりひとりが独立した存在として切磋琢磨する九谷青窯。
どの陶工さんも、自分の作風や個性を、もっともっと、と貪欲に探している姿勢が印象的でした。
新緑の季節に、芽吹いた若葉が伸びて枝を広げていくときに感じる、
瑞々しさやワクワクする高揚感。
九谷青窯の器が持つ人を惹きつけるエネルギーは、
そこにいる陶工さんたちの、前へ前へという気持ちが器に込められているからなのです。



 

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